017646 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

ウミネコの記録日記

ウミネコの記録日記

「ひとりぽっちの青年」


「ひとりぽっちの青年」


その朝、ざばざばと顔を洗った青年は――――鏡に映る自分に、にやりと笑いかけた。

今日はごく普通の日に見えて実は、青年の誕生日。

さすがにもうこの年になって、この日を指折り心待ちにしているなんてことは
なかった。

ここ数年は気付けば過ぎていたことすらあるほどだ。

別にちょうど用事が重なって忙しかったから、というわけでもないと思う。

家族がせっかくだから祝おうってうるさくてと、誕生日に早く帰宅する友達を
見ていると羨ましかった。

誕生日を覚えていてくれて、それを祝う気になってくれる。

そんな、自分を産んでくれた人と一緒に過ごせるなんて。

彼らは家族のはからいに迷惑そうな顔をしていたけれど、その表情の中に
嬉しさのようなものを嗅ぎ取り、

青年は少しの寂しさを感じていた。

だから、自分も家庭を持ったら誕生日はパーッと祝うものにしよう!

なんて、ささやかな想いを未来に託し。

今日も変わらぬ青年の、ごく普通の一日が始まる。


© Rakuten Group, Inc.