「ひとりぽっちの青年」「ひとりぽっちの青年」 その朝、ざばざばと顔を洗った青年は――――鏡に映る自分に、にやりと笑いかけた。 今日はごく普通の日に見えて実は、青年の誕生日。 さすがにもうこの年になって、この日を指折り心待ちにしているなんてことは なかった。 ここ数年は気付けば過ぎていたことすらあるほどだ。 別にちょうど用事が重なって忙しかったから、というわけでもないと思う。 家族がせっかくだから祝おうってうるさくてと、誕生日に早く帰宅する友達を 見ていると羨ましかった。 誕生日を覚えていてくれて、それを祝う気になってくれる。 そんな、自分を産んでくれた人と一緒に過ごせるなんて。 彼らは家族のはからいに迷惑そうな顔をしていたけれど、その表情の中に 嬉しさのようなものを嗅ぎ取り、 青年は少しの寂しさを感じていた。 だから、自分も家庭を持ったら誕生日はパーッと祝うものにしよう! なんて、ささやかな想いを未来に託し。 今日も変わらぬ青年の、ごく普通の一日が始まる。 |